4分間のピアニスト

06年のドイツ映画「4分間のピアニスト(Vier Minuten)」のレビューです。あらすじとしては「女性刑務所でピアノを教えている老女(トラウデ)と、服役中の若く才能のあるピアニスト(ジェニー)が、力をあわせてピアノコンクール優勝を目指す話」なのですが、単純な感動作では収まらず、映像と音楽にパワーがあり、本筋のストーリーに加え細かい人物描写やキャラ設定にも味があり何度も見てしまいます。

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映画『4分間のピアニスト』公式サイト

友人に薦められてDVDで見ましたが、見終わった瞬間は一人スタンディングオベーションでした。いくつか見所をご紹介します。

ジェニーの才能を見抜くシーンの演出の上手さ

初めてジェニーにピアノを教える時、態度が悪かったためにトラウデはそれを拒否する。ジェニーはキレて、隣にいた看守(男性)に暴行を始める。リアルな暴力シーンが始まるので見ている側(観客)の気持ちは高ぶる。耳鳴りのような音のなかトラウデはそっと音楽室を退室する。突然ジェニーがピアノに感情をぶつけはじめ、観客の高ぶった心にジェニーのピアノが入り込む。トラウデがピアノの音に惹かれていく演技も良い。写真は聞き耳を立てているトラウデの後姿。

反抗的な態度を制する強さ

才能を見過ごせないトラウデは本格的にピアノを教えることにする。これはジェニーにとってもチェンスだ。ジェニーから「ピアノを教えて」という手紙をもらうトラウデ。手紙に「すみません お願いします ありがとう」の言葉がない事を指摘する。面倒そうに口頭で「すみません お願いします ありがとう」と返答する。その反抗的な態度に「手紙を食べろ」と言い、規則その1は従順さであると告げる。「その2は何を食べる?」とジェニー。席を離れるトラウデ。ジェニーが呼び止め着席を求めるが、トラウデは席には座らない。ジェニーが手紙を食べてから座る。反抗的な暴れ馬であるジェニーへの凛とした対応が格好いい。

老いを感じさせない切れ味

トラウデは看守に度々クイズを出す。内容は戯曲やオペラのセリフで、トラウデはセリフを全て覚えているようだ。この看守はトラウデのクイズ、引いてはトラウデに対して信仰にも近い憧れを抱いている。 トラウデは設定では80歳という年齢だが、いろいろな記憶術があるとは思うが、老いを感じさせない切れ味には憧れる。

会議に見える人間関係

暴行のため監禁中のジェニーにピアノを教え、しかもコンクールを目指すという行為に対し、反対が起きる。この会議の雰囲気が、本題と直接関係ない人間関係の交錯が見られ面白い。仲間がジェニーに暴行され入院中である看守のリーダー(男性)は反対派。カウンセラーは賛成派で看守のリーダーの前妻。会議はこの2人の(元)夫婦喧嘩の延長線で所長が2人をなだめる。周りのスタッフはうんざりしている。トラウデはまったく聞いていない様子だったが、意見を求められた時に「コンクールでは優勝する。そしてその成功は私たち全員の成功で、所長個人の栄誉となる」と簡素にまとめ、所長とカウンセラーはニッコリ。会議は終わる。すでにトラウデはこの刑務所のオピニオンリーダーなのだ。

対等の立場

コンクールの予選でジェニーとトラウデは刑務所の外にでる。しかしトラウデは当日になってジェニーの私服がTシャツとズボンであることに気付く。何とかコンクール向きの服に変えたいが、寄り道は禁止されている。そこでトラウデはジェニーと服を交換することを迫るが、絶対に嫌だと拒否される。仕方なく服の交換を始める2人だが、お互いジャケットとコートだけは脱ぎたくない。それを会場前ギリギリで脱ぐ。ジェニーの立場として「服を貸してもらえるだけでありがたい」と思ってもよさそうだが、コンクールはお互いの望みであるのを知っているので、あくまで対等を要求する。すでに教師と生徒という関係ではない。

トラウデに恋をするジェニー

2人が同じ夢に向かって進むうちに、次第にジェニーがトラウデに恋をする。この映画では同性愛というキーワードがひとつの軸として存在しており、性を感じさせる描写が度々でてくる。実はトラウデも同性愛者であることが分かり2人の関係は複雑化する。相手の事を強く親身に思った時、人は恋に落ちる。これは実に自然なことで、そこに性は関係ないというのは、突き詰めると人間は体ありきか心ありきかという問題に向かい、精神性の進んだ文化ほど同性愛を認める趣向がある。一つ視野を広めると、この映画は2人のレズビアンの物語と捉えても良いかもしれない。

などなど、この調子で書き綴ってしまうといくらでも出てきます。コンクールで優勝を目指すというストーリーはあくまで全体の筋で、全てのシーンに見所が散りばめられている映画で、特に音楽が好きな人には問答無用でお勧めします。

 

 

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