男はつらいよ

1 『知られざる渥美清』を読み終わる。渥美清についての本は小林 信彦の『おかしな男 渥美清』に続いて2冊目。

『男はつらいよ』は1969年から始まったシリーズで、20代のうちに全部見たのは、我ながら少しズレてるとは思う。映画好きの友人からは「(大筋で)全作同じなんだから違う映画を見るほうが良い」と言われた。至極まっとうな意見でもある。

笑いのセンスや泣かせる要素は全く色褪せず、昔の日本各地を見るのは楽しい。ここまで長期でマンネリなのは驚異的で、ほんといろいろ好きなんだけど、一言でいえば、偉そうだが、山田洋次の感覚が肌に合うんだと思う。

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私が渥美清に興味を持った時点で彼は既に亡くなっており、残念ながらリアルタイムで活躍を見ることは出来なかったんだけど、ネットで調べるうちに、どんどん彼に興味がでてきた。いわゆる寅さんとは正反対の人柄だったようだ。

本当に寅さんみたいなキャラだったら、それはそれで面白いが、寅さんはもちろん全て計算された演技であり、どこまでアドリブかは推測するしかないが、いかに馬鹿に見せるか、という点で「うまいなぁ」と思うシーンがいくつかある。

たとえば『第31作 旅と女と寅次郎』で、「都はるみ」演じる「京はるみ」がとらやに顔を出す。現実と同じく人気歌手という設定なので近所は大騒ぎ。騒然とする中「2階にあがったら?」とさくら。寅が流れるように「おじゃまします」。

よく考えられてると思う。

『知られざる渥美清』にあった仕事や結婚観について。彼は一匹狼で仕事と家庭はきっぱり分けたそうだ。主役だからと威張るわけでもなく、逆に他人に気を使いすぎる傾向があったみたい。結婚してからも家庭とは別に部屋を借り、そこで一人過ごすことが多かったそうだ。

「仕事をしているときは、やっぱり一人のほうがいいですね。いろいろくだらんことに気を使わないですむ、それに気をつかう自分が、口惜しいんです。そういうことに気をつかってる、それにふと気がつくと、たまらなくなるんです。」

「ぼくはねえ、やっぱり女のひとが好きだし、とても女に惚れるけれども、できることなら、いっしょに暮らさないでいたいと思うんです。 〜 一緒に暮らしていくとなると、やっぱり裏切らなきゃあ、生きていけないんじゃないかという気がするんです。」

一般人にはなかなか実現できないかもしれないが、素直で誠実だと思う。

「たとえば『東芝日曜劇場』なんてのを見ていますね。杉村春子さんがお母さんで、だれかが息子で、だれかが嫁で、といったドラマをやっているとします。そうすると、一人だったら、もうのどがギクギクいうくらいこみ上げてきて、ボロボロ、ボロボロ泣けるんですよ。ぼくは自分が役者なのに、そういうとき、いくらでも涙が出てくる。ところが、そばにふっと、母親がいたり、女房がいたり、そうするともう泣けないんです。それがいやなんです。なにか母親がどうおもうだろう、女房がどうおもうだろう、なんていうところへ、気が散っているんですね。ドラマならドラマに、とことんまでのめりこんでいけない、それがいやなんですよ。」

わがままなのは承知だが、とっても共感できる。一匹狼、個人主義でやっていくには、相応の実力が要求されるわけで、渥美清にはそれを許される力があったわけだけど、何が大切なのか。現実とのバランスですね。

 

 

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