贋世捨人

著者は車谷長吉さん。朝日新聞の人生相談「悩みのるつぼ」に、オタクの息子に悩んでますの岡田斗司夫さんが回答者になっている流れで、4人の回答者の一人である車谷長吉さんを知る。

その後、下の相談に対する回答で、岡田さんとは真逆とも言える過激さに惹かれ、1998年の直木賞作品「赤目四十八瀧心中未遂」と共に本作「贋世捨人」をポチってみた。

ちと長いですが、過激と感じた相談と回答は以下。

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40代の高校教諭。英語を教えて25年になります。自分で言うのも何ですが、学校内で評価され。それなりの管理的立場にもつき、生徒にも人気があります。妻と2人の子供にも恵まれ、まずまずの人生だと思っています。

でも、5年に1度くらい、自分でもコントロールできなくなるくらい没入してしまう女子生徒が出現するんです。

今がそうなんです。相手は17歳の高校2年生で、授業中に自然に振る舞おうとすればするほど、その子の顔をちらちら見てしまいます。

その子には下心を見透かされているようでもあり、私を見る表情が色っぽくてびっくりしたりもします。

自己嫌悪に陥っています。もちろん、自制心はあるし、家庭も大事なので、自分が何か具体的な行動に出ることはないという自信はありますが、自宅でもその子のことばかり考え、落ち着きません。

数年前には、当時好きだった生徒が、卒業後に他県で水商売をしているとのうわさを聞き、ネットで店を探しました。自分にあきれながら、実際にその街まで足を運びましたが、結局店は見つかりませんでした。見つけていたら、きっと会いに行っていたでしょう。

教育者としてダメだと思いますが、情動を抑えられません。どうしたらいいのでしょうか。

 

回答者 作家 車谷長吉

私は学校を出ると、東京日本橋の広告代理店に勤めた。が、この会社は安月給だったので、どんなに切り詰めても、1日2食しか飯が喰えなかった。

北海道・東北への出張を命じられると、旅費の半分は親から送ってもらえと言われた。仕方がないので、高利貸から金を借りて行っていた。生まれて初めて貧乏を経験した。2年半で辞めた。

次に勤めたのは総会屋の会社だった。金を大企業から脅し取るのである。高給だったが、2年半で辞めた。30代の8年間は月給2万円で、料理場の下働きをしていた。この間に人の嫁はんに次々に誘われ、姦通事件を3遍起こし、人生とは何か、金とは何か、ということがよくよく分かった。

人は普通、自分が人間に生まれたことを取り返しのつかない不幸だとは思うてません。しかし私は不幸なことだと考えています。あなたの場合、まだ人生が始まっていないのです。

世の多くの人は、自分の生はこの世に誕生した時に始まった、と考えていますが、実はそうではありません。生が破綻した時に、はじめて人生が始まるのです。従って破綻なく一生を終える人は、せっかく人間に生まれてきながら、人生の本当の味わいを知らずに終わってしまいます。気の毒なことです。

あなたは自分の生が破綻することを恐れていらっしゃるのです。破綻して、職業も名誉も家庭も失ったとき、はじめて人間とは何かということが見えるのです。あなたは高校の教師だそうですが、好きになった女生徒と出来てしまえば、それでよいのです。そうすると、はじめて人間の生とは何かということが見え、この世の本当の姿が見えるのです。

せっかく人間に生まれてきながら、人間とは何かということを知らずに、生が終わってしまうのは実に味気ないことです。そういう人間が世の9割です。

私はいま作家としてこの世を生きていますが、人間とは何か、ということが少し分かり掛けたのは、31歳で無一物になった時です。

世の人はみな私のことを阿呆だとあざ笑いました。でも、阿呆ほど気の楽なことはなく、人間とは何か、ということもよく見えるようになりました。

阿呆になることが一番よいのです。あなたは小利口な人です。

悩みのるつぼ 朝日新聞 6月13日

 

「オタクの息子に悩んでます」によると、岡田さんは相手の立場で想像し役立つ回答を模索するが、車谷さんの回答は己の事とその比較。本当の地獄を知らんあんたは人生始まってないよ。と一喝。

自分がこの質問者だったら「それが出来ねーから悩んでんだよ!」となるが、しかし体裁を繕わない正直でストレートな意見は、レールから外れた身からすればスカッとする。

贋世捨人

本書は世捨人になりきれなかった半生の私小説で、著者が苦しかった時期に感じた心境が正直に書いてあって面白い。

反社会的でいたいから車の免許を持たないことをポリシーとしているが、料理屋で働いている時に、自分だけ配達で運転できないのは辛かったと書いてあるのを見ると、じゃあ取得すればいーじゃんと偏屈にしか思えないが、同時に理解も出来る。

作家になる覚悟を持つ38才まで特に目的も持たずフラフラと生きていたのだが、書きたくない部分を曝け出すことで認められるようになったようだ。

自分の汚い部分を晒した失敗談などが最も面白くて人気がでるのは、私のように趣味でブログ書いてる素人でも感じる事で、それが分かっていてもなかなか書けない。正直の力というか、自己啓発本のアップフィーリングな感覚とは違う軸で活力を貰える本でした。

 

 

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