赤目四十八瀧心中未遂

個人的に2冊目の車谷長吉作品。直木賞受賞作。私小説で限りなく実体験に近いと思われるが、「心中」から想像できるように贋世捨人よりもドラマティックな展開でグイグイ引き込まれた。

どこまで事実かは置いといて、インテリで才能がありながら反社会的で無気力。落ちる所まで落ちてやれと、その日暮らしの生活を送っているが、周りの人間からは才能があるくせにと受け入れられない様が痛々しい。

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よかったところ

心中することになる若い女と初めて会った時に、
お互いに興味を見透かされないようにチェックする初対面の感じが良かった。

見るのが怖いような美人である。目がきらきらと輝き、光が猛禽のようである。私は目を逸らす。それと察知して、右手で軽く胸をかばうような仕草をし、また私を見遣って、目を伏せる。その目を伏せる時にだけ、この女の中に隠されているらしい暗いものが顔に現れる。伊賀屋の女主人が目の隅で、鋭く私を返り見る。私は横を向く。併しその瞬間、も一度、女の姿を盗み見る。見ずにはいられない美貌であり、黒髪が匂うようである。

この女は刺青の彫師の女で、さらに自分のアパートの真下に住んでいる。
この女とデキてから彫師に探りを入れられるのだが、その探りもナイフの上のナメクジのように、ねっとりと鋭く、恐ろしい。

 

 人間に生まれたことを取り返しのつかない不幸だと感じてる著者の価値観が垣間見える文章も、理解できないわけではなかった。

このままでは「中流の生活。」に落ち着いてしまうという恐怖。併し会社の同僚たちはみな「中流の生活。」を目指していた。あんな生活のどこがよくて。ピアノの上にシクラメンの花が飾ってあって、毛のふさふさした犬がいる贋物西洋生活。ゴルフ。テニス。洋食。音楽。自家用車。虫唾が走る。あんな最低の生活。

まさに反社会的。社会還元という人の定めと批判している俗物にすら成り得ない自分に納得できない思考。

人や社会の何を見ても基本的にネガティブに業深く捉える。こちらは心中相手と動物園に来た時の描写。

それでも来園者の半数以上は、生殖期の盛りを過ぎた男女が、自分たちが生殖した生物を連れて来ているか、あるいはさかりの付いた若い男女が、これからの生殖にそなえて、毛物や鳥、爬虫類たちの腥い貪食と生殖の臭いを嗅ぎに来ていた。

 人生に意味は無いと繰り返しでてくるが、認めたくないが故に繰り返すのだろうか。個人的には「夜と霧」フランクルの「私たちが人生から何を期待できるかが問題なのではなく、人生が何を私たちに期待しているか」を思い出した。あと、三重県の赤目四十八瀧に行ってみたくなった。

 

 

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