福岡伸一さんの「できそこないの男たち」を読む。「生物と無生物のあいだ」も面白かったが、本書にもグイグイと引きこまれ、あっという間に読んでしまいました。
タイトルから想像がつきますが、内容は生物学的に男は女に劣るという話が軸で、その証拠をたっぷりと紹介してくれるので男としては少々寂しい感じ。
難しい学術的な話が分かりやすく書いてあって、著者の頭の良さが滲みでてます。さらに、あっちらこっちらと読者が飽きないようなエピソードが散りばめられており、問答無用でオススメです。
福岡伸一流の分かりやすく覚えやすい文章のコツ
第一章の初め、本書のスタートは、イキナリ高校の教科書の引用から始まります。高校の教科書「生物I」に登場する、染色体の説明文。
これが非常に分かりにくい。読んだそばから頭から抜けていくような、まるで面白みのない文章。引用すると、
個体が雄になるか雌になるかは、多くの生物で遺伝的に決められている。つまり、染色体の中には性を決定する染色体(性染色体)があり、雄と雌ではその組み合わせが異なっている。ヒトやショウジョウバエの性染色体は2本あり、それぞれX染色体、Y染色体という。雄ではX染色体とY染色体が1本ずつ、雌ではX染色体が2本(1対)ある。性染色体以外の染色体を常染色体という。常染色体、相同染色体が2本ずつ遂になっており、ヒトでは44本(22対)、ショウジョウバエでは6本(3対)である。常染色体を2Aで表すと、ヒトやショウジョウバエの染色体の構成は、雌は2A+XX、雄では2A+XYで表すことができる。
そうそう。教科書ってこんな感じでした。著者は、なぜ教科書がつまらないのか。どうすれば面白くなるのかという問いから本書をスタートしており、教科書は事後的に知識や知見を整理し、そこに定義や意味を付与しているだけで、なぜ、そのとき、そのような知識が求められたのかという切実さ、物語が見えないからつまらない。と説明。
ここから、初めて顕微鏡で精子を見た男の話が始まります。
学校では短時間で多くの事実を詰め込む必要があるので、面白くないのは仕方ないが、どんな発見にも物語があり、発見者の驚きを追体験できると、一気に面白くなります。
性別を決めている場所
DNAには人の設計図が書き込まれている。いまや誰もが知っている事実だが、男と女を決める場所がDNAの何処に書き込まれているか。というが発見されたのは1990年だったらしい。1990年というと、たまの「さよなら人類」とかが流行ってて、私は中学生だった。意外とその歴史は浅いんですね。
当時の研究者達は、一体どのようにその場所を特定していったのか。
そもそも、DNAって細胞の中に入っているわけだから、凄く小さいわけで、どうやって読むんだろう?仮に読むことが出来たとしても、女性を決定している場所には、具体的にどんな事が書いてあるの?Eカップとかがデータになってるわけ?そんな疑問ってあると思うんですが、本書は、そんな一般人が抱きそうな疑問に一つ一つ向きあってくれます。
ちなみに、男と女を分けるDNAの場所はSRY遺伝子と呼ばれ、その場所には、あるタンパク質の設計図が書かれているそうです。受精後の細胞分裂の最中に、そのタンパク質が作られると、また別のタンパク質が反応、そのまた次のタンパク質が反応、というような連鎖が起こり、最終的に、女が男に変化する。
SRYがなかったら、そのまま女。SRYがあったら、男に変化。
つまり、生物のベースは女性なのです。
男性が劣る理由
日本人の平均寿命は男性が79.19歳で女性は85.99歳。 なぜ女性の方が長生きなのでしょう?男は重労働や危険な仕事をしているから?男の方がストレスが多いから? 男と女の生き方の違いによって差が生まれているのでしょうか?
小津安二郎『小早川家の秋』のワンシーン
ここで、世界各国の平均寿命を比べてみると、どこの国でも女性の方が寿命が長い。生まれた後の環境や生き方が寿命を決めているとしたら、男性の方が寿命の長い生活習慣の国があっていいようなもんです。生物学的に、男は女より弱いのです。
それは、SRY遺伝子によって連鎖的な反応が起こり、女→男へカスタマイズされる過程や男性ホルモンの影響で、女性よりも免疫力が低下してしまう為だそうです。免疫力の低下はがんの発生などを引き起こし、男性のがん発病率は60歳以降で女性のダブルスコア以上となっています。
筋肉質な見た目とは裏腹に、男性は弱いのです。草食系こそ正しい姿なんですね。