「従来の10〜20万円の高級アンプにも負けない」と噂の中華アンプ。そんな中華アンプの人気モデル『SMSL SA-98E』と、15年前に買った定価12万のDENONプリメインアンプ『PMA-2000IV』を比較してみました。
中華アンプの多くは1万円以下ですが、SA-98Eは中華アンプの中では高価な方。それでも性能が定価12万のアンプに匹敵するならば格安です。しかしPMA-2000IVというプリメインアンプは、DENONを代表するコスパ最強の定番シリーズ。オーディオ雑誌のベストバイの常連です。
もし中華アンプの噂が本当ならば、相手にとって不足はないはず。頑張れ中華アンプ!デジタルアンプの底力を見せてくれ。
DENONプリメインアンプ PMA-2000IV
まずはPMA-2000IVというモデルについて。の前にDENONについて。
DENON(デノン)は「日本電氣音響株式會社」の「電音」に由来。由来的には「でんおん」ですね。元々はレコード会社「日本コロムビア」のブランドだったが、2001年に独立して株式会社デノンに。太平洋戦争の終戦を伝えた昭和天皇の肉声は、DENONが発明した円盤録音機で録音されたそうだ。
初代「PMA-2000」は1996年発売。その後、1998年「PMA-2000II」、1999年「PMA-2000III」、2002年「PMA-2000IV」、2005年「PMA-2000AE」、2009年「PMA-2000SE」、2012年「PMA-2000RE」、2012年「PMA-2500NE」と20年以上にわたって続いている。PMA-2000はDENONの定番シリーズなのだ。
初代から細かなブラッシュアップが繰り返されているものの、基本設計に大きな変更はない。PMA-2000シリーズ最大の特徴は「繊細さ」と「力強さ」の両立を実現するUHCシングルプッシュプル回路。繊細さと力強さの両立というコンセプトは、確かにアンプの理想のように聞こえる。
あとPMA-2000の実力の証拠として、中古市場の値段が落ちないことがあげられる。15年前に新品9万円前後で購入したこのアンプは、現在ヤフオクで6万円前後で取引されている。
中華アンプ SMSL SA-98E
SA-98EはD級デジタルアンプ。デジタルアンプはICチップ化により低コストで生産できる。ノイズが少なくクリア、そして高出力が可能という特徴を持つ。
低価格が売りの中華アンプ市場のなか、比較的高価な部類に入るのがこのS.M.S.L社の『SA-98E』。搭載チップはSTマイクロエレクトロニクス社の『TDA7498E』を採用。これは生産中止となった『TA2020』と同じく評判が良いが、Tripath社のICに比べアナログっぽく暖かな音だと評価するひとも多い。このモデルの特徴は80W+80W=160Wという大出力で、大型スピーカーも楽に駆動できる。
しかも電力効率は85%に達し発熱はほぼない。この大出力を実現するため、本機には本体よりも大きなACアダプターが付属する。通常そこまでの大出力が必要になることはあまりないが、余裕をもったスペックは音にゆとりがでる。
デジタルアンプは音質的に、というよりは工学的に理想的なのだ。
ネットのレビューでは「こんな小さなアンプが大型スピーカーを楽々と駆動する」点に驚愕している方が多い。80W+80W=160Wという出力に偽りはないようだ。
視聴
最初にSA-98Eで音を出した時は伸びがなく固い音で心配したが、数時間のエージングが必要のようで次第に音も安定してくる。音源はiPhone6から流すことにした。
SA-98Eの最初の印象は普通にいい音。やるな!という感じ。解像度が高く音の分離も良い。パワーもあって小さな音も低音もよく出ている。ただボーカルの輪郭がラフな気がする。あと解像度が高いせいか全体的にドライな印象。
これが最初の印象だが、これだけ聞いたら全然ありの音。PMA-2000IV(以下、DENON)と肉薄してるんじゃないか?とも思えてくる。
今度はいよいよDENONと比較してみると、DENONは音がまとまっていて響きがキレイだ。さらにボーカルに芯があって引き締まっている。『Whitney Houston – I Have Nothing』のような曲だと特に響きの影響が強い。でも『Daft Punk – Get Lucky』のようなテクノはあまり差を感じない。テクノやPOPのように沢山の音が散りばめられた、あまり響きが要求されないような曲の場合、差を感じにくいのかもしれない。
あと、SA-98Eはボワッと音像が広がっている。DENONはそれよりコンパクトにまとまるが、高密度で輪郭がしっかりしてる。
SA-98EのDENONの違いをまとめると、第一に音の響き・余韻が違う。あとDENONはボーカルの芯がしっかりしている。SA-98Eは、これがデジタルの音なのだろうが、クリア&パワフルだが全体的にドライ。
中華アンプ音質一覧
モデル | 音質 |
---|---|
『Lepy LP-2024A+』レビュー全域フラットだからか中域に厚みが足りず迫力に欠ける感じがする。加えて音の広がりもSA-98Eと比べると狭い。逆に言えば、中域〜高域に意識を集中しやすいかも。 | |
『ELEGIANT Bluetoothアンプ』レビュー柔らかくて聴きやすい音。迫力という意味では他のデジタルアンプに負けるかもしれないが、とても自然な音に感じる。音場も広く包まれる感じがある。長時間聴くならこの音を聴いていたい。バランスのとれた音。 | |
『NFJ TUBE-01J』レビュー真空管プリアンプなので、他のアンプと組み合わせて使う。音はかなり変化して、音にツヤが出て響きが美しくなる。『感情に訴える成分』が増すような感じ。オーディオの奥深さが垣間見える。 | |
『NFJ TUBE-02J』レビュー真空管ヘッドホンアンプ。TUBE-01Jのヘッドホン対応版とも言える。TUBE-01Jで真空管に目覚めたので02Jも購入しました。音の傾向はTUBE-01Jと同じ。プリアンプとして使っています。 | |
『NFJ FX202A/FX-36A PRO』レビュー基本的にLP-2024A+と似た音だが、プラスして音に厚みと密度が加わり、アナログっぽさが増して聴きやすい。SA-98Eほどの力強さはないので、SA-98Eの弟分といった感じ。NFJの真空管プリアンプと合わせたい。 | |
『SMSL SA-98E』レビューこの中では一番高価なだけあって音質もよい。音に密度と厚みがある。低域もよく出るので場の量感も感じる。これなら数万のアナログアンプと互角の音質と言ってもよさそう。トーンコントロールほか余計な機能は一切ないが、アンプ自体の質感は高い。 | |
『Lepy LP-V3S』レビューLP-V3Sだけアナログアンプ。中域を全面に押し出してくるので、空間表現や細かい音を楽しむというより、ボーカルのようなメイン所をしっかり聴くのに最適な味付けという感じ。 |
視聴 – Chord Mojo
今度はiPhone6からChord MojoにDACを変更してSA-98Eで聞いてみる。
iPhone6で聴いていた時は「iPhone6って音いいな〜」なんて思っていたが、Mojoに変えると激変する。その変化はSA-98Eでも手に取るように、というか感じるように分かる。
あれだけ音が良いと思ったiPhone6が、ノッペリと平面的に感じる。Mojoはさらに正確に、高密度に、丁寧に音を作り出す。その結果、数秒聴いただけで、没入感が違うことが分かる。ボーカル一つとっても、描写が細かく緻密になり集中するのが安易になる。
『Roxy Music – True To Life』のような、様々な楽器が重なり響き合うような曲は、もはや別物になる。全ての楽器が、ことごとく緻密で力強くなり、全体から受ける印象が大きく変わってくる。
DenonとSA-98Eの変化も大きいが、iPhone6とMojoの変化もかなりでかい。でもiPhone6とMojoの変化をバッチリ表現してくれるSA-98Eは、ソースの違いをちゃんと再現できる良いアンプだとも思う。
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NFJ FX-98Eの方がさらにいいかも
『FX-AUDIO-』は日本企業ノースフラットジャパン(NFJ)のブランド。つまり厳密には中華アンプとは呼べないが、『SMSL SA-98E』を購入するのなら先に知っておきたいメーカー。私が購入した『SA-98E』は無音時に若干ホワイトノイズが乗る。スピーカーから2mほど離れれば聞こえなくなるほどのレベルではあるが、NFJはそのノイズの原因を特定。NFJの公式ブログに詳しく記載されていた。
SA-98Eのノイズ原因
- 回路のアートワークのベタGND部分でアンプ出力段のゲートスイッチノイズがアナログ段のGNDに影響してSN比が低下している
- 使用しているACアダプタからのリップルノイズを内部の電源平滑コンデンサが十分取り切れていない為に全高調波歪とSN比が低下
- 部品の精度誤差 貼り付けタイプの積層セラミックコンデンサ自体精度差もしくは不良ロット
NFJでは、それらの問題を修正したバージョンとして『FX-98E』を独自販売している。この機種には『SA-98E』の巨大なACアダプターは付属していないが、価格設定はとても良心的。ACアダプターを別途購入する手間があっても『SA-98E』より魅力的だ。日本のメーカーなので保証期間も6ヶ月間と安心だし、より高音質を追求するユーザーならNFJは要チェックだ。
結論
2つのアンプを聴き比べて、私はやっぱりDENONで聴きたい音楽があると思った。
でもSA-98Eが「従来の10〜20万円の高級アンプにも負けない」というのは、あながち嘘でもない。デジタルアンプの特徴である、クリア(ホワイトノイズは残念だが・・・)でパワフル、高解像度といった点は、DENONと遜色ない。それどころか解像度に至ってはDENONより高いと思う。
中華アンプは、確かにとんでもなくコスパが高い。ただ『音作り』という点で、国産アンプはじっくりとチューニングされており、そこはスペックでは語れない部分だ。
今回の視聴は、アンプ切替器でパチパチと頻繁に両アンプを切り替え、じっくりと聴き比べた。そうでもしなければSA-98Eも全然いい音なので普通に聴けてしまう。日常的にラフに音楽を流すような用途ならば、中華アンプで不満を感じる人より、「いい音だなぁ」と満足する人の方が圧倒的に多いと思う。
視聴したスピーカー
品番 | PMC TB2SM-AW |
使用ユニット | 低域用:17cmコーン型 高域用:25mmハードドームツイーター |
周波数特性 | 40Hz~25kHz |
出力音圧レベル | 90dB |
インピーダンス | 8Ω |
外形寸法 | W200×H400×D300mm |
重量 | 8kg |
視聴に使ったスピーカーはPMCというメーカーのTB2SMというモデル。2000年発売で定価はペア186,000円。PMCはあまり聞き慣れないメーカーかもしれませんが、スタジオモニターとして有名。購入当時はそれなりに話題になってましたが、最近は売り場でもPMC自体あまり見かけません。民生モデルはB&WやDALIに押されているのかな。
PMC(Professional Monitor Company)は1991年にイギリスで創立されたスピーカー専門メーカー、ということで歴史は浅い。しかしプロフェッショナルスタジオモニターとして世界中で使われている。
PMCを導入しているスタジオは、BBC、Dolby、DTS、Dreamworks、JVC studio Japan、 Metropolis、SonyMastering。アーティストはQueenのBrian May、Stevie Wonder、Elton John、Prince、Coldplay、Kraftwerk等だそうで有名所ばかり。たしかに業界では信頼されているみたい。
モニタースピーカーということで、他メーカーより味付けがなくスッキリした音だと思います。定位がとても自然で正確です。もう一つPMCの特徴である「トランスミッション・ライン」という構造により、アタックが早い豊かな低域です。アンプやDACの性能が顕著に現れるところも気に入っています。
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